自転車は私のタイムマシーン(2)
「八代、どうだ、少しは体調良くなったか? 君には特別に自転車通学を許可してあげるから、明日からそうしてみてはどうだ。」と生活指導の先生に進められました。ここから私と生涯の生き方を決定する自転車との関係が始まりました。
中学一年の夏休みが終わり、正はさっそうと真新しい自転車に乗って通学することになりました。正の生家は京都の加茂川沿いで、自転車にまたがり京都美術館、平安神宮までおよそ10分。哲学の道近くの中学校までは、ゆっくりでも20分程度の行程です。病弱な正はそれまで40分以上徒歩で通っていたのだから、それはすごいことでした。そしてその日の体調によってはよく遅刻していた一時限目の授業にも遅れることがなくなりました。
「自転車は病気前の僕に戻してくれるタイムマシーンだ」
当時、少年マガジンだったか、そんな雑誌に短編の冒険小説が連載されていました。それは主人公の少年がタイムマシーンに乗り江戸時代にタイムスリップし、自転車で活躍するという話しでした。正はまるで自分が主人公になったかの様に、毎日自転車を楽しみ、特に日曜になると朝早くから京都御所や南禅寺など、どこでも自転車で行くようになりました。
「自転車だったら、みんなと同じだ、僕は元気だ!」
正少年は自転車に出会う事によって少しだが、勇気と希望を見つけることができたようです。
学校のいじめにさえ毎日耐えれば帰りに自転車に乗れると、自分に言い聞かせました。しかし、事件は中学2年の夏休み前のある日に突然おこりました。
「僕の自転車が壊されている...」
職員室の横に置いていた僕の自転車は無惨に壊されていました。しかたなく壊れた自転車を押しながら歩いて帰ることになり、校門を出た途端にクラスメイトの待ち伏せにあってしまいました。彼等は突然、私を廃屋につれて行くと次々と暴行を加えた。「おまえだけ自転車とは、ふざけんな」が主な原因、そしていじめられっ子だから狙われるのは当たり前、弱虫な私はやられるがまま彼等が過ぎ去るのを待つしか手段はありませんでした。
辺りは暗くなり、人通りもとぎれた頃、やっと私は開放されました。そして壊れた自転車と壊れた体と心でとぼとぼと歩きました。何度も休憩しながら、泣きながら歩きました。神宮道まで来ると商店街となります。ひときわ急に明るくなったと思うと市電が轟音を響かせすぐ横を通り過ぎました。正は通り過ぎる市電を目で追っているうちに小さな光が気になりました。目を凝らして見ると、そこには「キヨセサイクル」と書かれていました。正は恐る恐る自転車店のガラス戸を開き、中に入りました。「あのー、この自転車直りますでしょうか。」
このサイクルショップとの偶然の出会いが私を変えていきます。


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