自転車は私のタイムマシーン(3)
正は恐る恐る自転車店のガラス戸を開き、中に入りました。
「あのー、この自転車直りますでしょうか。」
「直らない自転車なんか無いよ、どれ見せてごらん。」
30歳になりたてのオーナー店長がそう言うと、壊れた自転車に向かった。そして無事、自転車は完治した。三度目の再発は中学三年生二学期、まもなく高校受験の頃でした。高熱と割れんばかりの頭痛、体は痙攣し堅くなり、まるで自分の体では無いかのように意のままに動かなくなった。
「また卒業式に出れなかった」と気がついたのは、卒業式が終わって二週間も経過し桜も散ってしまった頃でした。
「もう一回三年生をやってもらうね。」
担任の先生が訪問してくれました。
「でも登校するのは二学期からでいいから。」
車椅子無しで外出できるようになった正は、久しぶりにあのタイムマシーンに乗った。まだ遠出はできないし、しばらくこの自転車にも乗っていないので、例のサイクルショップに行くことにした。
清清しい風がほほをきり、観光客の間を縫うように平安神宮を通り過ぎ神宮道に出る。今日は夏休み前最後の日曜日、サイクルショップには大勢のお客さんが集まっていた。正は圧倒され遠回しにその様子を観察した。○○高校の自転車部がインターハイに行くらしく、メンテナンスに来ている。「自転車部って?」と心に問うが、全く解らない。解る事は、彼等は素晴らしい自転車に乗っているってことだけ。そして、すごーく早いってことだけ・・・。彼等が去ってから正はショップに入り、自転車のメンテナンスをしてもらった。
その間中、店長はサイクルスポーツや○○高校、○○大学自転車部の活躍の話を聞かせてくれた。もうすぐ夏休み、目を輝かせた少年はリハビリ中にも関わらず、親を説得し230kmの琵琶湖一周サイクリングを計画した。
「正が生まれてきた印を残すにはこのチャンスしか無い、死んでもいいぞ、心配しないから行ってこい。」
それは正にとって、世界一周よりも長い旅の挑戦でした。
「自転車はタイムマシーンだ。」
「もう再発はいやだ、いじめられるのも、おびえるのも...。死んでも構わない、自分の可能性を試すんだ。」
ツールドフランスの映画を京都会館で見たことがあった。毎日毎日すごい選手が何百キロも走り、そして輝いている。正はそんなシーンを頭に描きながら、風を切った。そしてその無謀とも思える旅は、日焼けし、くたびれた顔から垣間見ることができる自信をお土産に、無事終了した。
「そうだ!自分でロードレーサーを買おう。」正は一週間後から早朝、牛乳配達を始め、高校入学と同時にロードレーサーを買うことができました。
その前向きな毎日が良かったのか、病気を完全に克服することができたようです。自転車は素晴らしい乗り物です、私に健康な体と心をプレゼントしてくれました。もういじめも無関係。中学三年では最強の番長と噂されている山根君とも親友になったり、ともかく楽しい日々を過ごしました。
正は高校に入学すると、すぐに自転車競技部に入部しました。ここから長い選手生活の始まりです。今でも忘れることができない思い出の宝庫です。


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