The Talk Goes Back
正は未来をかけて、琵琶湖一周の旅に出た。このまま病気に縛られる生き方はしたくないし、弱虫のいじめられっ子のまま大人になったら…と考えると、生きている価値もないと思いました。自転車は、正が唯一普通の子に戻れるギアであり、決して裏切ったりしない仲間でもありました。
京都から国道1号線でおおさか山を超えます。道のすぐ横には曲がりくねった京滋電鉄のレールが敷かれています。峠を超えると美しい琵琶湖が見えます。そして石山寺から草津、彦根と湖岸道路を走ってここまでで80km走りました。正は疲れていません、それよりか走りたくてたまりません。母が作ってくれたお弁当を食べました。湖岸は鏡のように穏やかでした。正は物心ついた頃から琵琶湖が大好きでした。それは毎年夏になると、大好きな父親が琵琶湖の近江舞子に水泳に連れて行ってくれるからでした。正は病気になるまで、何よりも水泳が好きでした。そして今はその大好きな琵琶湖を、見えない敵である病気と戦う為ペダルを踏み続けます。
北の端である大崎観音を通過して、ついにダウン、エネルギー切れとなりました。正は砂浜でしばらく眠ってしまい、気が付けば京都を出発してすでに18 時間が経過していました。京都まで120kmという道路標識が見えます。正は疲れきった身体で走り出しました。100km、90kmと距離看板に書かれた文字は小さくなっていきます。湖西の町、今津に到着すると、もう辺りは真っ暗でした。正はうどんを食べ、そして水泳場の桟橋で倒れるように眠りにつきました。
中学三年のやり直し三年の夏、はっきり覚えている夏の景色です。今でも鮮明に蘇ります。「京都→」の看板が見えました、ここを曲がればもう、琵琶湖を回る必要はなくなります。正はハンドルを右に切りました。そして30分、京都府の看板が見えました。正は泣きました、声を出して泣きました。ワァーワァーと大声で泣きながら走りました、泣きじゃくりは止まりません・・・胸が苦しくてたまりません、生まれて初めて「何かをやり遂げた」満足感はとても大きく、感動はいつまでも続きました。まだ家までは遠いと言うのに・・・


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